2011年7月31日日曜日

協和発酵キリンの医薬品特許訴訟 知財高裁、大合議審理へ(2)

 米国においても、「プロダクト・バイ・プロセス クレーム(Product-by-Precess Claim)」の権利範囲の解釈は、当該クレームを、当該クレームに記載のプロセスで生成したプロダクトに限定して解釈する(*1)のか、それとも、当該クレームに記載のプロセスには限定されない(*2)のか、米国連邦控訴裁判所(CAFC)において異なる2つの判決が存在していました。
 しかしながら、2008年5月18日、CAFC大法廷(en banc)は、「当該プロセスで生成したプロダクトに限定して解釈する」と判示し、決着しました(*3)。
 なお、ドイツでは、物質同一説が採られています(*4,5)。

*1 Scripps Clinic & Research Foundation v. Genentech, Inc.(927 F.2d 1565, 1583)
*2 Atlantic Thermoplastics Co. v. Faytex Corp.(970 F.2d 834)
*3 Abbott Laboratories, et al. v. Sandoz, Inc., et al. (No.06-937, 2009.05.18)
*4 プロダクト・バイ・プロセス クレーム特許の技術的範囲 (三枝英二;判例と実務シリーズNo.274)
*5 プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈(佐藤安紘, Vol.3 2008.9東京大学法科大学院ローレビュー)

2011年7月28日木曜日

協和発酵キリンの医薬品特許訴訟 知財高裁、大合議審理へ(1)

 日経新聞(7/26朝刊)によると、知財高裁の大合議は、判例の事実上の統一などが必要な場合に開かれ、2005年の同高裁発足以降、6件目ということです。
 事案は、いわゆる「プロダクト バイ プロセス クレーム(Product-by-Precess Claim)」(例えば、「A方法によって製造された物B」)の権利範囲(技術的範囲)をどのように捉えるかです。
 プロダクト・バイ・プロセス・クレーム特許は物の発明であり、製造方法に限定されず物として同一であればその技術的範囲に属するとする「物質同一説」と、クレームされた方法により製造された物に限定されるとする「製法限定説」があります。
 従来、わが国では原則「物質同一説」が採られ(*1)、「しかし特許の対象を当該製造方法に限定して解釈すべき事情が存する場合には、特許の対象が当該製造方法に限定される場合があり得る」(最高裁平成10年11月10日「袴腰に切替えのある袴事件」)とされてきました。

 テバ社保有の特許3737801号の特許請求の範囲は次のようなものです。
【請求項1】
次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し、
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し、
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し、
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え、そして
e)プラバスタチンナトリウム単離すること、
を含んで成る方法によって製造される、プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり、エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。)

 判決は、原則「製法限定説」を採り、例外として「特段の事情」を考慮するという、わが国の定説と反対の立場を採りました。そして、上記請求の範囲の『「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」の構成は,その記載自体によって物質的に特定されており,物としての特定をするために,その製造方法を記載せざるを得ないとは認められない。』として特段の事情も認めませんでした。
 そして、製法について検討し、被告製品は,原告の製法を充足しないから,技術的範囲に属さないとして、原告の請求を棄却しました。
 原告は原判決を不服として控訴したものです。私は、原判決を支持します。
*1 南条雅裕「プロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利解釈」パテント55巻5号(2002)