2014年10月26日日曜日

自炊代行サービス、知財高裁においても著作権法違反に。

 第三者から注文を受けて,小説,エッセイ,漫画等の様々な書籍をスキャナーで読み取り,電子ファイル化するサービス(いわゆる「自炊代行サービス」)が著作権違反に該当するか否かで小説家,漫画家らと業者の間で争われていた事件の控訴審判決が10月22日知財高裁(裁判長:富田善範)でありました。

<事案の概要>
 被控訴人(小説家,漫画家)は控訴人(自炊代行業者)に対して、控訴人が、権利者の許諾なく、第三者から注文を受けて,小説,エッセイ,漫画等の様々な書籍をスキャナーで読み取り,電子ファイル化するサービスを行う行為が、著作権侵害(複製権侵害)にあたるとして、差止及び損害賠償請求を行った。

<争点>
 1.控訴人ドライバレッジによる複製行為の有無
 2.著作権法30条1項の適用の可否

<裁判所の判断>
1.争点1について
(1) 「複製権」とは,著作物を「印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製すること」である(同法2条1項15号)。本件サービスにおいては,書籍をスキャナーで読みとり,電子化されたファイルが作成されており,著作物である書籍についての有形的再製が行われていることは明らかであるから,複製行為が存在するということができるのであって,有形的再製後の著作物及び複製物の個数によって「複製」の有無が左右されるものではない。
(2) 控訴人ドライバレッジは,独立した事業者として,本件サービスの内容を決定し,スキャン複製に必要な機器及び事務所を準備・確保した上で,インターネットで宣伝広告を行うことにより不特定多数の一般顧客である利用者を誘引し,その管理・支配の下で,利用者から送付された書籍を裁断し,スキャナで読み込んで電子ファイルを作成することにより書籍を複製し,当該電子ファイルの検品を行って利用者に納品し,利用者から対価を得る本件サービスを行っている。したがって,利用者が複製される書籍を取得し,控訴人ドライバレッジに電子ファイル化を注文して書籍を送付しているからといって,独立した事業者として,複製の意思をもって自ら複製行為をしている控訴人ドライバレッジの複製行為の主体性が失われるものではない。 ・・・ 利用者は本件サービスを利用しなくても,自ら書籍を電子ファイル化することが可能であるが,そのことによって,独立した事業者として,複製の意思をもって自ら複製行為をしている控訴人ドライバレッジの複製行為の主体性が失われるものではない。
(3) ・・・ からすれば,本件サービスにおいて,書籍の調達,送付行為が持つ意味は大きく,利用者が,書籍の電子ファイル化を「管理」しているのであるから,スキャン行為の主体は利用者であって,控訴人ドライバレッジは利用者の「補助者」ないし「手足」にすぎず,控訴人ドライバレッジの複製行為の主体性は阻却される旨主張する。
 一般に,ある行為の直接的な行為主体でない者であっても,その者が,当該行為の直接的な行為主体を「自己の手足として利用してその行為を行わせている」と評価し得る程度に,その行為を管理・支配しているという関係が認められる場合には,その直接的な行為主体でない者を当該行為の実質的な行為主体であると法的に評価し,当該行為についての責任を負担させることがあり得るということができる。
 しかし,・・・ 控訴人ドライバレッジは,利用者からの上記申込みを事業者として承諾した上でスキャン等の複製を行っており,利用者は,控訴人ドライバレッジの行うスキャン等の複製に関する作業に関与することは一切ない。
 そうすると,利用者が控訴人ドライバレッジを自己の手足として利用して書籍の電子ファイル化を行わせていると評価し得る程度に,利用者が控訴人ドライバレッジによる複製行為を管理・支配しているとの関係が認められないことは明らかであって,控訴人ドライバレッジが利用者の「補助者」ないし「手足」ということはできない。
(4) ・・・ 以上によれば,本件サービスにおける複製の対象,方法,複製物への関与の内容,程度や本件サービスの実態,私的領域が拡大した社会的状況の変化等の諸要素を総合考慮しても,控訴人ドライバレッジが本件サービスにおける複製行為の主体ではないとする控訴人らの主張は理由がない。

2.争点2について
 著作権法30条1項は、①「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」こと、及び②「その使用する者が複製する」ことを要件として,私的使用のための複製に対して著作権者の複製権を制限している。
 そして,前記2のとおり,控訴人ドライバレッジは本件サービスにおける複製行為の主体と認められるから,控訴人ドライバレッジについて,上記要件の有無を検討することとなる。しかるに,控訴人ドライバレッジは,営利を目的として,顧客である不特定多数の利用者に複製物である電子ファイルを納品・提供するために複製を行っているのであるから,「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」ということはできず,上記①の要件を欠く。また,控訴人ドライバレッジは複製行為の主体であるのに対し,複製された電子ファイルを私的使用する者は利用者であることから,「その使用する者が複製する」ということはできず,上記②の要件も欠く。
 ・・・ そうすると,本件サービスにおける複製行為が,利用者個人が私的領域内で行い得る行為にすぎず,本件サービスにおいては,利用者が複製する著作物を決定するものであったとしても独立した複製代行業者として本件サービスを営む控訴人ドライバレッジが著作物である書籍の電子ファイル化という複製をすることは,私的複製の過程に外部の者が介入することにほかならず,複製の量が増大し,私的複製の量を抑制するとの同条項の趣旨・目的が損なわれ,著作権者が実質的な不利益を被るおそれがあるから,「その使用する者が複製する」との要件を充足しないと解すべきである。

以上のように、原審は維持されましたが、控訴人が上告することも考えられます。

2014年8月29日金曜日

中国改正商標法、2014年5月からスタート!!

 今年5月から施行されている中国の改正商標法の内容について中国弁護士・商標弁理士から話を聞きました。
 主な改正点としては、 (1) 多区分出願と先使用権、 (2) 限定的な出願分割制度、 (3) 著名商標の表示禁止、 (4) 異議、無効の主体的要件の厳格化、 (5) 商標の普通名称化に基づく取消、 (6) 登録商標の使用を損害賠償の前提、 (7) 審理期間の設定などがあります。
 それは兎も角、システムの不具合で5月以降に出願された商標の審査は、未だ停滞した状態とのことです。電子出願制度が導入されましたが未だにシステムは動いていません。宇宙へロケットを飛ばす技術力がありながら、4か月間もトラブルが続いているとは、信じられません。

 日本の企業が中国へ商標登録出願するに際して気を付けることは、会社の登記簿謄本委任状(包括委任状制度なし)が必要ということです。 
 また、中国は、日本と違って付与前異議申立制度ですが、異議申立については代表者の委任状の原本が2通必要です。1通は商標局が保管し、もう1通は出願人に送付するということです。(代表取締役がサインしていない場合には、異議申立が無効になるのでしょう。)
 他にも代表者の委任状の原本が必要な手続としては、譲渡、使用許諾登録、登録商標の放棄(一部放棄含む)などがあります。

2014年6月25日水曜日

ホンダのバイク「スーパーカブ」立体商標登録!

 ホンダのバイク「スーパーカブ」が立体商標登録されました。
 1958年の販売開始からこれまでに160か国以上で8700万台以上販売されたということです。
 このように長期にわたって販売されている商品は、モデルチェンジによって発売当初のものとは外観が異なって(商標の同一性が失われて)いるのが通常です。この商品の登録が認められたのは、大きなモデルチェンジがなかったことが理由のひとつでしょう。
 審査の経過をみると、審査の段階で、審査官は、通常のバイクの形状を表しているに過ぎないという理由で登録を拒絶しました。
 出願人(本田技研工業株式会社)は、特許庁の上級審である審判を請求しました。審判においても、通常のバイクの形状を表しているに過ぎないという審査結果は支持されましたが、出願人が審判で主張した、「永年の販売によって当該バイクの形状を見れば需要者はその出所を識別できる」という理由を採用しました。審決は、次のようにいっています。

 「使用に係る商標ないし商品等の形状は、原則として、出願に係る商標と実質的に同一であり、指定商品に属する商品であることを要するというべきである。」
 「本願商標は、1958年以降、モデルチェンジを繰り返し、派生モデルも生じているものの、その特徴において変更を加えることなく、本件審決時までの50年以上にわたって、請求人により製造、販売されている二輪自動車であるスーパーカブの立体的形状であり、その生産台数は一貫して極めて多く、日本全国で販売され、幅広い層の需要者に使用されているものである。また、本願商標は、長年にわたり多くの広告や雑誌等において紹介され、そのデザインの継続性から各種デザイン賞にも選定されているものであり、さらに、本願商標と出所の混同を生じるおそれがある他人の二輪自動車は見当たらないものといえる。
 そうとすれば、本願商標は、二輪自動車について使用された結果、請求人を出所とする識別標識として、需要者が認識するに至ったものというのが相当であるから、本願商標は、自他商品識別力を獲得するに至っており、本願の指定商品である二輪自動車の需要者が、本願商標に接するときは、請求人に係る二輪自動車であることを認識することができるものというのが相当である。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第2項の要件を具備するというべきである。」(不服2013-009036

2014年6月22日日曜日

(続)「LADY GAGA」はCDやDVDの品質(内容)表示か?

 早いもので、先の投稿から数ヶ月経過しました。その後、他の研究部会へ出席し、諸先輩の話を伺い、私の考えも変わってきました。。
 昨年12月に「LADY GAGA」判決(H25.12.17 知財高等判 H25(行ケ)10158 審決取消請求事件)が出ました。日本弁理士会商標委員会は、昨年10月に『歌手名・音楽グループ名』よりなる商標の拒絶理由の運用について、特許庁に要望書を提出しています。
知財高裁の判決は、日本弁理士会商標委員会の要望とは反対の結論であり、現在の特許庁の運用を認めるものです。

 「判決を是認する立場」の諸先輩によると、CDやDVDにおける歌唱者名の表示は、商品であるCDやDVDの出所(製造者・販売者)を表示するものではなく、内容表示にあたるというものです。
 歌唱者名が無名なら、内容表示に該当しないが、歌唱者名として名が知られていくにつれ、当該歌唱者とその者による演奏・歌唱との間には一体的な意味合いが生じ、当該歌唱者名は当該演奏・歌唱の内容そのものを認識させるようになります。レディ・ガガのような著名な歌手になれば、需要者は、そのCDやDVDに収容された楽曲の歌い手ととらえるので、それは、本来的に登録することができない商標(商標法3条1項3号)に該当するというものです。

 歌唱者名が無名ならば登録され、有名になれば登録されないというのは、信用の化体した有名な商標がより厚く保護されるべき商標制度の趣旨に反しているようにも思われますが、商品等との関係で識別力を有さない商標を保護しないのは、商標法の基本的な考えですから、諸先輩の上記「判決を是認する立場」が正しいのでしょう。

2014年2月1日土曜日

「LADY GAGA」はCDやDVDの品質(内容)表示か?

 先週、日本商標協会での「LADY GAGA」判決(H25.12.17 知財高等判 H25(行ケ)10158 審決取消請求事件)の検討会がありましたが、都合が悪く参加できませんでした。日本弁理士会商標委員会は、特許庁の運用を変えて欲しいという(要望書(『歌手名・音楽グループ名』よりなる商標を拒絶する運用について)を提出していますが、この判決は特許庁の運用を是認するものです。
判決の概要は次のとおりです。
 LADY GAGA本人が代表を務める会社(原告)は、商標「LADY GAGA」について特許庁に商標登録出願しましたが、,第9類「レコード,インターネットを利用して受信し, 及び保存することができる音楽ファイル,映写フィルム,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」を指定商品とする本願商標については登録が認められませんでした。そこで、特許庁による審決の取り消しを求めて提訴したものです。
 審決の理由は、本件商品に使用した場合,これに接する取引者・需要者は,当該商品に係る収録曲を歌唱する者,映像に出演し,歌唱している者を表示したもの,すなわち,その商品の品質(内容)を表示したものと認識するから,本願商標は,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものといわざるを得ず,また,本願商標をその指定商品中,上記「LADY GAGA」(レディ(ー)・ガガ)と何ら関係のない商品に使用した場合,商品の品質について誤認を生ずるおそれがあり,したがって,本願商標は,商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当するというものです。
 裁判において、原告は、
1 本願商標の自他商品の識別力を認定するに当たり,具体的な使用態様を限定して判断を行ったことの誤り
2 本願商標の自他商品識別力の有無に関する判断の誤り
3 本願商標のような歌手名等が現実に自他商品の識別標識として機能している事実を看過したことの認定の誤り
を主張して争いましたが、いずれについても認められませんでした。  そして、次のように判示しました。

 以上によれば,「LADY GAGA」(レディ(ー)・ガガ)は,アメリカ合衆国出身の女性歌手として,我が国を含め世界的に広く知られており,「LADY GAGA」の欧文字からなる本願商標に接する者は,上記歌手名を表示したものと容易に認識することが認められる。
 そうすると,本願商標を,その指定商品中,本件商品である「レコード,インターネットを利用して受信し,及び保存することができる音楽ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」に使用した場合,これに接する取引者・需要者は,当該商品に係る収録曲を歌唱する者,又は映像に出演し歌唱している者を表示したもの,すなわち,その商品の品質(内容)を表示したものと認識するから,本願商標は,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない。したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する。
・・・
 しかし,我が国を含め世界的に広く知られた歌手名を表示したものと取引者・需要者が容易に認識する本願商標が,指定商品中本件商品において自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないことは,上記1(2)に判示したとおりである。自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない以上,本件商品において本願商標が表示されて使用された場合,品質(内容)の誤認を生じることがあり得るとしても,出所混同を生じさせることはないから,原告の主張には理由がない。
論点は、歌手(アーティスト)名がレコードや録画済みDVDの品質(内容)表示(商標法3条1項3号)に該当するか否かということです。人の氏名は識別力を有しますが、「レコード」等の商品について識別力を有するどうかです。判決は、「当該商品に係る収録曲を歌唱する者,又は映像に出演し歌唱している者を表示したもの,すなわち,その商品の品質(内容)を表示したもの」であるから自他商品識別力を否定していますが、賛成できません。収録曲を歌唱する者等が商品の品質(内容)表示か否かはさて置き、歌手(アーティスト)名が商品の出所であれば自他商品識別力があるといえるからです。
 原告は、『本願商標が「我が国を含め世界的に広く知られている」ものであるならば,商標登録が認められ,商標法による保護が与えられるべきである。』と主張しましたが、裁判所は、その著名性故に品質(内容)表示に該当するとし、「自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない」以上、出所混同を生じさせることはないと判旨しています。
 商標法3条1項3号該当性が論点であり、2項(使用による識別力の取得)については論じていません。3条1項3号の該当性判断において、「本願商標に接する者は,上記歌手名を表示したものと容易に認識することが認められる。」と判断していますが、同時に、その歌手が商品の出所であると認識すると思います。

2014年1月31日金曜日

STAP細胞の製造方法、PCT国際特許出願 理研など

 新聞記事に載っていましたので、調べてみました。
 WO2013/163296 GENERATING PLURIPOTENT CELLS DE NOVO「新たな多能性細胞の生成方法」 (Applicants: THE BRIGHAM AND WOMEN'S HOSPITAL, INC.; RIKEN; TOKYO WOMEN'S MEDICAL UNIVERSITY)
 米ハーバード大学のブリガム・アンド・ウイメンズ病院、東京女子医大、及び理研の3名の共願です。
 発明者は、チャールズ・バカンティ教授他3名がハーバード大学医学部関係者であり、4番目がSTAP(Stimulus-Triggered Acquired Pluripotency)細胞を作った小保方晴子さんで、続いて若山照彦理化学研究所チームリーダー(現・山梨大学教授)、理研の笹井芳樹副センター長などで、計7名です。
 明細書は100頁を超えており、請求項の数は74です。最初のクレームは
1. A method to generate a pluripotent cell, comprising subjecting a cell to a stress.
  (細胞にストレスを与えることを含む多能性細胞の生成方法)
です。国際調査報告書も添付されていますが、勿論、このクレームは、x(新規性なし)です。

2014年1月19日日曜日

中小・ベンチャー企業、小規模企業の特許料が約1/3 に!

 中小・ベンチャー企業や小規模企業等による国内出願の「審査請求料」と「特許料」及び国際出願の「調査手数料・送付手数料・予備審査手数料」が軽減されます。平成26年4月以降に特許の審査請求又は国際出願が行われた場合に適用され、平成30年3月までの時限措置です。
 詳細は、特許庁のホームページを参照ください。