2015年9月11日金曜日

薬剤成分の略称表示の商標権侵害の成否[PITAVA(ピタバ)事件] (その5)

 いわゆる「ピタバ事件」の知財高裁の判決(知財高裁判 H27・9・9 H26(ネ)10137号)がでました。5件目の高裁判決と思います。
 原告(控訴人)は、薬について商標「PITABA」の商標権者であり、ピタバスタチンカルシウムを有効成分とするコレステロール低下薬の後発医薬品メーカーです。競合会社が錠剤やシートに「ピタバ」を付した薬を販売したので、複数のメーカーや販売者に対して商標権侵害で訴えたもののなかの1つの高裁判決です。

 原審は、東京地裁平成26年(ワ)第767号です。原審では、
 「被告各商品に付された被告各標章は,商標としての自他商品識別機能若しくは出所表示機能を果たす態様で使用されているということはできず,本件商標の「使用」に該当すると認めることはできない。」
と判旨し、原告の請求を棄却しました。
 そこで、原告(控訴人)は、本件登録商標を、指定商品を
 (1) 「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とするものと、
 (2) 「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」と、
に分割して、(2)に基づいて控訴したものです。


判旨:

 『被控訴人各標章は,本件商標の指定商品の品質,原材料を普通に用いられる方法で表示したものにすぎないと認められるから,商標法26条1項2号及び同項本文により,本件商標権の効力は,被控訴人各標章には及ばないというべきである。』

1. 被控訴人各標章の表示が指定商品等の品質等の普通に用いられる方法での表示(商標法26条1項2号)に該当するか(争点3)

 (1) 被控訴人各商品の取引者・需要者について

 被控訴人各商品は,いずれも医療用医薬品であるから,医師,薬剤師等の医療従事者がその取引者・需要者に当たることは明らかである。
 次に,患者について検討すると,被控訴人各商品は処方箋医薬品に指定されているから,患者は,原則として,医師等の処方に基づいてその供給を受けることになるものの,被控訴人各商品の購入者(エンドユーザー)であり,また,患者が医師に処方薬の希望を伝えたり,患者の選択に基づいて薬剤師が被控訴人各商品を調剤したりすることもないわけではない(甲10,11)。また,錠剤に付されている刻印や印刷は,薬剤の誤使用を避ける目的でされているところ,いかなる薬剤であるかを最後に確認するのは,それを服用しようとしている患者自身であることに鑑みれば,患者もまた被控訴人各商品の取引者・需要者であるとして検討するのが相当である。

 (2) 被控訴人各標章の表示が商品の品質等の普通に用いられる方法での表示に該当するといえるか

 医療従事者を主たる構成員とする学会における研究発表や,医療用医薬品に係る特許公開公報等において,ピタバスタチンないしピタバスタチンカルシウムにつき,「スタチン」ないし「statin」以降を省略した「ピタバ」ないし「PITAVA」という表現が使用されていることが認められる(乙6ないし10,14,15,43,45)。そして,こうした研究発表や特許公開公報等において,字数やスペース等の制限などから,敢えてその場限りのものとして「スタチン」ないし「statin」以降を省略した表現を用いざるを得なかったと認めるに足りる事情はうかがわれない。また,Hmg-CoA還元酵素阻害薬には,ピタバスタチンのほかアトルバスタチン,フルバスタチン,ロバスタチン等があり,これらはスタチン又はスタチン系薬剤と総称されているところ,ピタバスタチンないしピタバスタチンカルシウムについても当該総称部分よりも前の部分である「ピタバ」をその略称として用いることはごく自然であることに鑑みれば,「ピタバ」は医療従事者の間においてピタバスタチンないしピタバスタチンカルシウムの略称として一般的に使用されているものと認めるのが相当である。

 さらに,錠剤に識別コードとして会社コード及び製品コードが刻印又は印刷されることや,医療用後発医薬品の販売名には,原則として含有する有効成分に係る一般的名称が使用されていることは,医療従事者の間において周知の事実であるといえること,及び,前記認定の被控訴人各標章の使用態様,包装態様からすれば,医療従事者が被控訴人各商品に付されている被控訴人各標章に接したときには,これらを被控訴人各商品の有効成分の略称であり,これを普通に用いられる方法で表示しているものと認識すると認められる。
 そうすると,被控訴人各標章は,本件商標権の指定商品である「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」の有効成分の一般的名称の略称である「ピタバ」を,普通に用いられる方法で表示しているものにすぎず,この点は,医療従事者において明確に認識されているものと認められる。

 また,被控訴人各商品は処方箋医薬品であって,患者は,原則として,医師等の処方に基づいて被控訴人各商品の交付を受けるから,その有効成分が何であるかについて十分な知識を有しているとは限らず(医師及び薬剤師が患者に交付する処方箋及び薬剤情報説明書には,薬剤の販売名がほぼ例外なく記載されているものの,必ずしもその有効成分が明記されているとはいえず(甲25,乙38),医師等が患者に薬剤の有効成分についてまで説明をするのが通常であると認めるに足りる的確な証拠もない。),その他,前記認定の被控訴人各商品の販売名,PTP包装シートの外観,記載内容,文字等の体裁などをみても,患者が被控訴人各標章に接したときに,被控訴人各商品の有効成分又はその略称であると認識する可能性が高いということはできない。

 もっとも,被控訴人以外の多くの製薬会社からピタバスタチンカルシウムを有効成分とする薬剤が販売されているところ,医療用後発医薬品の販売名には,原則として有効成分の一般的名称を用いることとされているから,おのずから被控訴人各商品と有効成分名において共通する販売名で当該薬剤が販売されることになる(乙39)。そのため,販売名をもって被控訴人各商品と他の製薬会社から販売されている薬剤とを区別するには,各販売名の後部に付された会社名等の部分によらざるを得ない。このことは,被控訴人各商品が処方される際,医師及び薬剤師から交付される処方箋及び薬剤情報説明書に,有効成分の一般的名称である「ピタバスタチンCa」と被控訴人の登録商標である「MEEK」を結合させた販売名の形式で薬剤の名称が記載されていることからも明らかである(乙38)。

 そして,患者が被控訴人各標章を目にするのは,市場において流通している多数の薬剤の中から被控訴人各商品を選択する際ではなく,上記のような取引態様によって被控訴人商品の交付を受けた後,PTP包装シートや一包化された袋から被控訴人各商品を取り出して服用するまでの短時間かつ限定された機会にすぎない。』

 『以上のような被控訴人各商品を含む医療用後発医薬品の販売名に係る実情や,被控訴人各商品の通常想定される取引態様,被控訴人各標章の表示の態様などに鑑みれば,被控訴人各標章は,取引者・需要者の一部である患者がこれを被控訴人各商品の有効成分の略称であると認識する可能性がそれ程高くないとしても,被控訴人各商品が医師の処方箋に基づいて患者へ譲渡されるものであり,その処方箋取引において重要な役割を果たしている医師,薬剤師などの医療従事者において,これが本件商標の指定商品の薬剤の有効成分の略称として表示されていることが明確に認識されている以上,客観的にみればこれを本件商標の指定商品の品質,原材料を普通に用いられる方法で表示する商標と認めるのが相当である。上記のような取引の実情に鑑みれば,患者の一部において,被控訴人各標章が被控訴人各商品の有効成分の略称であることを認識していないことが,上記認定を妨げるものではない。』

 (3) 小括

 以上によれば,被控訴人各標章は,本件商標の指定商品の品質,原材料を普通に用いられる方法で表示したものにすぎないと認められるから,商標法26条1項2号及び同項本文により,本件商標権の効力は,被控訴人各標章には及ばないというべきである。
 したがって,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の請求はいずれも理由がない。』


検討:

 本判決に賛成です。ただし、判旨に一部が疑問あります。

 (1) 取引者・需要者について

 本判決は、医師,薬剤師等の医療従事者のみならず、患者も需要者に該当すると認定しました。その理由は次のとおりです。
 『・・・,患者は,原則として,医師等の処方に基づいてその供給を受けることになるものの,被控訴人各商品の購入者(エンドユーザー)であり,また,患者が医師に処方薬の希望を伝えたり,患者の選択に基づいて薬剤師が被控訴人各商品を調剤したりすることもないわけではない(甲10,11)。また,錠剤に付されている刻印や印刷は,薬剤の誤使用を避ける目的でされているところ,いかなる薬剤であるかを最後に確認するのは,それを服用しようとしている患者自身であることに鑑みれば,患者もまた被控訴人各商品の取引者・需要者であるとして検討するのが相当である。』
 妥当です。これまでの高裁判決も該当商品の取引者・需要者に患者が含まれると認定しています。

 (2) 商品の原材料を普通に用いられる方法で表示しているか(商標法26条1項2号の該当性)

 しかしながら、患者に対して、被控訴人の商品(薬剤)の原材料を普通に用いられる方法で表示したものにすぎないと認められるのかについての理由は疑問です。
 『患者が被控訴人各標章に接したときに,被控訴人各商品の有効成分又はその略称であると認識する可能性が高いということはできない。』つまり,患者が「スタバ」を原材料の略称とは認識しないことがあると認定しつつ,『患者が被控訴人各標章を目にするのは,市場において流通している多数の薬剤の中から被控訴人各商品を選択する際ではなく,上記のような取引態様によって被控訴人商品の交付を受けた後,PTP包装シートや一包化された袋から被控訴人各商品を取り出して服用するまでの短時間かつ限定された機会にすぎない』と判断しています。

 患者が薬を購入するときPTP包装シートから被控訴人標章を視認することができるのであれば、患者に対しては、商品を購入する時点で自他商品識別力を発揮し得るということができるのでしょう。

 (3) 商標的使用

 原判決は、いわゆる商標的使用でないという理由で請求を棄却しました。

 『被控訴人各商品である錠剤に付された「ピタバ」という被控訴人各標章は,医薬品の販売名等の類似性に起因する調剤間違いや患者の誤飲等の医療事故を防止する目的で,被控訴人各商品の有効成分がピタバスタチンカルシウムであることの注意を喚起するためにその略称を錠剤の表面に記載したものであると認められ,被控訴人各商品のような医療用医薬品の主たる取引者,需用者である医師や薬剤師等の医療関係者及び患者が被控訴人各商品に接したときにも,被控訴人各商品に付された被控訴人の会社コードでありかつ登録商標でもある「MEEK」等の表示と相まって,そのような表記として認識されると認めるのが相当である。
 したがって,被控訴人各商品に付された被控訴人各標章は,商標としての自他商品識別機能若しくは出所表示機能を果たす態様で使用されているということはできず,本件商標の「使用」に該当すると認めることはできない。』

 しかしながら、本判決では、この争点については判断しませんでした。被控訴人が、被控訴人各標章の表示が商標的使用でない(商標法26条1項6号)ことを主張立証できていなかったからかも知れません。

2015年9月5日土曜日

薬剤成分の略称表示の商標権侵害の成否[PITAVA(ピタバ)事件] (その4)

 いわゆる「ピタバ事件」の知財高裁の判決(知財高裁判 H27・8・27 H26(ネ)10138号)がでました。4件目の高裁判決と思います。
 原告(控訴人)は、薬について商標「PITABA」の商標権者であり、ピタバスタチンカルシウムを有効成分と するコレステロール低下薬の後発医薬品メーカーです。競合会社が錠剤やシートに「ピタバ」を付した薬を 販売したので、複数のメーカーや販売者に対して商標権侵害で訴えたもののなかの1つの高裁判決です。

 原審は、東京地裁平成26年(ワ)第768号です。原審では、
 「被告各商品に付された被告各標章に接した需要者等は,特に上記称呼の同一性により,本件商標との間で商品の出所に混同を来すおそれがあるということができる。」つまり、商標(標章)は類似すると。しかしながら、「商標登録の取消審判請求がされ,当該商標登録が取り消されるべきことが明らかな場合には,不使用取消制度及び商標権制度の趣旨に照らし,その商標登録に係る商標権に基づく差止め請求は権利の濫用に当たり許されないと解される。したがって,原告による本件商標権の行使は権利の濫用に当たり許されないと判断することが相当である。」
と判旨し、原告の請求を棄却しました。
 そこで、原告(控訴人)は、本件登録商標を、指定商品を
 (1) 「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とするものと、
 (2) 「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」と、
に分割して、(2)に基づいて控訴したものです。


判旨:

 『被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当し,また,商品の「原材料」又は「品質」を「普通に用いられる方法で表示する商標」(同項2号)に該当するものと認められ,控訴人が有する本件分割商標権の効力は被控訴人各標章に及ばないものと認められるから,控訴人の当審における交換的変更に係る請求は,いずれも理由がないものと判断する。』

1. 商標法26条1項6号該当性(争点2)

 『医師,薬剤師等の医療従事者であれば,「スタチン系薬」又は「スタチン系化合物」を説明する文献又は文脈の中で,上記表記がされた場合,それらが「ピタバスタチン」,「アトルバスタチン」,「ロスバスタチン」等を意味することを理解すること, ・・・ 
 上記認定事実によれば,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」について,その塩に関する部分(「カルシウム」)の記載及び「スタチン」の記載を省略した「略称」であることが認められる。
 そして,医師,薬剤師等の医療従事者の間においては,後発医薬品の販売名は含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)から構成されていることは一般的に知られているものと認められるから,医療従事者が,被控訴人各商品に接した場合,被控訴人各商品が「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」等を販売名とする後発医薬品であることを認識し,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称であることを認識するものと認められる。

 一方で,患者においては,PTPシートに入れられた状態で被控訴人各商品の交付を受けた場合,PTPシートから被控訴人各商品を取り出して服用する際に,PTPシートに記載された「ピタバスタチンカルシウム」等の表示が自然に目に触れ,被控訴人各商品は「ピタバスタチンカルシウム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,被控訴人各商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。

 また,被控訴人各商品は,医師等の処方箋により使用する「処方箋医薬品」であり(前記1(1)イ(ア)),被控訴人各商品と他の薬剤とが一つの袋にまとめて包装される「1包化調剤」により処方される場合があるが,この場合,患者は,1包化した袋を開封し,その袋内に薬剤が入ったままの状態で服用するので,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示を認識することはないのが通常である。もっとも,患者は,1包化した袋からいったん薬剤を取り出して服用する場合もあるが,その際には,取り出した薬剤を一緒に服用すべきひとまとまりの薬剤として認識し,個々の薬剤の表示が目に触れたとしても,その表示が薬剤の出所を示すものと理解することはないものと認められる
 以上によれば,被控訴人各商品の需要者である医師,薬剤師等の医療従事者及び患者のいずれにおいても,被控訴人各商品に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)から商品の出所を識別したり,想起することはないものと認められるから,被控訴人各商品における被控訴人各標章の使用は,商標的使用に当たらないというべきである。

 したがって,被控訴人各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当するものと認められる。』


2. 商標法26条1項2号該当性(争点3)

 『前記2(1)ア認定のとおり,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」について,その塩に関する部分(「カルシウム」)の記載及び「スタチン」の記載を省略した「略称」であることが認められる。
 そして,前記2(1)イ認定のとおり,医師,薬剤師等の医療従事者の間においては,後発医薬品の販売名は含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)から構成されていることは一般的に知られているものと認められるから,医療従事者が,被控訴人各商品に接した場合,被控訴人各商品が「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」等を販売名とする後発医薬品であることを認識し,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称であることを認識するものと認められる。
 そうすると,被控訴人各商品の需要者である医療従事者においては,被控訴人各商品に付された被控訴人各標章は,被控訴人各商品の「有効成分」を表示したものであるとともに,被控訴人各商品には原材料として「ピタバスタチンカルシウム」を含有することを表示したものと理解するものと認められる。

 次に,前記2(1)イ認定のとおり,患者においては,PTPシートに入れられた状態で被控訴人各商品の交付を受けた場合,PTPシートから被控訴人各商品を取り出して服用する際に,PTPシートに記載された「ピタバスタチンカルシウム」等の表示が自然に目に触れ,被控訴人各商品は「ピタバスタチンカルシウム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,被控訴人各商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。

 以上によれば,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,商標法26条1項2号に該当するから,控訴人が有する本件分割商標権の効力は,被控訴人各標章に及ばないというべきである。』


検討:

 本判決に賛成です。ただし、判旨に一部が疑問あります。
 医師,薬剤師等の医療従事者が,原材料として「ピタバスタチンカルシウム」を含有することを表示したものと理解するものと認識し、「ピタバ」がその略称であると理解すると考えます。

 しかしながら、患者が,薬を服用する際に「ピタバ」の表示が薬の原材料の含有成分を表示すると理解することはないでしょう。

 一方、被控訴人は、
 「商標法26条1項6号は,商標は本来的には自他商品等の識別のために使用すべきものであるから,本来保護すべき範囲以上の権利を商標権者に与えるような事態や,当該商標権者以外による商標の使用が必要以上に自粛されるような事態等の発生をあらかじめ防ぐため,いわゆる商標的使用がされていない商標,すなわち,需要者が,取引の時点において,同一の商標が使用されている商品又は役務の出所が同一であると認識できる態様(自他商品識別機能・出所表示機能を果たす態様)で使用されていない商標には,商標権の効力が及ばないことを明らかにしたものと解される。」
と本号の趣旨を説明し,需要者としては、
 「患者は,他の医薬品と自ら対比等をすることなく,医師による指示に基づいてのみ医療用医薬品を購入するから,処方箋医薬品の取引者,需要者には含まれない。特に医療用後発医薬品(ジェネリック医薬品)は,先発医薬品(新薬)の特許期間満了後,有効成分や製法等が国民共有の財産となった後に販売される医薬品であり,同じ成分の他社製品が数多く出回ることとなるため,医療機関や薬局の多くは,一つの有効成分に対して後発医薬品を1種類に絞って在庫を準備しているのが現状であり,患者は先発医薬品か後発医薬品のいずれかの購入を希望するかどうかを決定する機会を与えられることはあっても,後発医薬品の中の銘柄を指定又は希望することはできない。」
という理由で、医師,薬剤師等の「医療関係者」のみが,取引者,需要者であると主張しています。
 被控訴人の主張は、論理的に矛盾がありません。

 控訴人は、
 「商標法26条1項6号は,「前各号に掲げるもののほか,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」と規定しており,その文言から,同号が問題となる場面が「取引の時点」に限定されると解する余地はない。たとえ需要者が商品を購入する時点において,当該表示が包装等により需要者の目に触れないとしても,需要者が,当該商品を使用する過程で目に触れる表示であれば,需要者は,当該商品を使用する過程において,当該商品に付された表示を繰り返し目にすることにより,当該商品の出所や品質と当該表示との関連性を認識・評価し,当該表示についてのイメージを形成するから,当該表示は商標として使用されているといえる。」
と主張しています。
 商品の識別力は「取引の時点」で発揮されることが必要であると解する,筆者は,上記控訴人の主張に反対であるが,判旨から判断すると、裁判所は,控訴人の主張を採用しているように考えられる。患者は、商品購入時に商品選別の決定権を有する点からは需要者に含まれるが、「服用する際」ではなく、商品を購入する際(「取引の場」)では本件商標を視認することができないため、需要者には含まれないのではないでしょうか。

2015年8月14日金曜日

薬剤成分の略称表示の商標権侵害の成否[PITAVA(ピタバ)事件] (その3)

 いわゆる「ピタバ事件」の知財高裁の判決(知財高裁判 H27・7・23 H26(ネ)10138号)がでました。3件目の高裁判決と思います。
原告(控訴人)は、薬について商標「PITAVA」の商標権者であり、ピタバスタチンカルシウムを有効成分とするコレステロール低下薬の後発医薬品メーカーです。競合会社が錠剤やシートに「ピタバ」を付した薬を販売したので、複数のメーカーや販売者に対して商標権侵害で訴えたもののなかの1つの高裁判決です。

 原審は、東京地裁平成26年(ワ)第772号です。原審では、
 『被告各商品のPTPシートに付された「ピタバ」という被告各標章は,医薬品の販売名等の類似性に起因する調剤間違いや患者の誤飲等の医療事故を防止する目的で被告各商品の有効成分がピタバスタチンカルシウムであることの注意を喚起するためにその略称をPTPシートに表記されたものであると認められ,被告各商品のような医療用医薬品の主たる取引者,需用者である医師や薬剤師等の医療関係者及び患者が被告各商品のPTPシートに接したときにも,その耳部分に表示された「トーワ」ないし被告の社名である「東和薬品」の文字やロゴマークと相まって,そのような表記として認識されると認めるのが相当である。
 したがって,被告各商品のPTPシートに付された被告各標章は,商標としての自他商品識別機能若しくは出所表示機能を果たす態様で使用されているということはできず,本件商標の「使用」に該当すると認めることはできない。』
と判旨し、原告の請求を棄却しました。
 そこで、原告(控訴人)は、本件登録商標を、指定商品を
 (1) 「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とするものと、
 (2) 「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」と、
に分割して、(2)に基づいて控訴したものです。


判旨:

 『被控訴人が被控訴人各商品の包装に被控訴人標章1~5又は被控訴人標章6~10を付して被控訴人各商品を販売したことは,商標的使用ではなく,いずれにせよ,被控訴人の行為は,本件商標権を使用する権利(商標法25条)の侵害行為(同法36条1項)又は侵害とみなされる行為(同法37条)には該当しない。』

 『被控訴人各商品において『ピタバ』の文字部分が強調されているのは,有効成分の語の特徴的部分を強調することによって,他種の薬剤との混同を可及的に防止するという意義を有するにすぎず,被控訴人各商品の販売名の一部であることを超えて,独立の標章ととらえられるものではない。そして,医師等又は薬剤師などの医療関係者にとって,『ピタバスタチン』又は『ピタバスタチンカルシウム』,あるいはこれを略記した『ピタバ』は,いずれも,出所識別機能又は自他商品識別機能を有しておらず(・・・),また,患者にとっても,『ピタバスタチン』又は『ピタバスタチンカルシウム』,あるいはこれを略記した『ピタバ』は,いずれも,出所識別機能又は自他商品識別機能を有しておらず,結局,被控訴人各商品において出所識別機能又は自他商品識別機能を果たし得るのは,被控訴人各商品のPTPシートの耳部分に表示された『トーワ』又は『東和薬品』の文字やロゴマークであると認められる。被控訴人標章1~10が,患者との関係において,有効成分と理解されているのか,あるいは,販売名と理解されているかはさておいて,これらの標章は,他種の薬剤との混同を防止するという識別のために用いられているのであり(患者にとってみれば,その表示の意義を知らないでも,自分が飲むべき薬か否かの区別がつけば十分である。),他社の同種薬剤との混同の防止,すなわち,出所識別又は自他商品識別のために用いられているのではなく,かつ,そのような機能も果たし得ない。
 したがって,被控訴人標章1~10が,本件商標の使用に該当すると認めることはできない。

 控訴人の『ピタバ』の文字部分に独立した出所表示機能又は自他商品識別機能がある旨の主張に対しては、『本件商標のように,指定商品の需要者に患者のような一般消費者が含まれる場合に,品質,原材料等の出所識別機能又は自他商品識別機能のない表示と認識され得る標章を,特定の取引業者に独占させることは,当該表示,そして,ひいては当該表示が指し示す原材料等そのものを事実上特定の者に独占させることになるから相当とはいえず,商標法のおよそ予定するところではない。そして,上記(2)に認定のとおり,本件商標の指定商品を取り扱う医師等や薬剤師等は,『ピタバ』を,その成分であるピタバスタチンカルシウムの略記として認識できるのである。』として、控訴人の主張を採用しなかった。


検討:

 本判決に賛成です。
 被控訴人商品は,PTPシートを包装とする薬剤であり,そのPTPシート包装の各個別の錠剤収容部分(表裏)に「ピタバ」と「スタチンCa」を横書きに上下二段に配して成ります(被控訴人標章)。このような被控訴人標章と本件商標が類似する関係にあり,被控訴人各商品が本件商標権の指定商品と同一であるので,形式的には被控訴人各商品の製造販売は本件分割商標権の侵害(商標法25条,37条1号)に該当します。
 しかしながら、被控訴人商品が病院,診療所,薬局等の医療従事者へ販売される場合には,箱に梱包されたままの状態で販売されますから,医療従事者が錠剤に付された「ピタバ」の表示を認識して購入することはありませんので、被控訴人各商品が病院,診療所,薬局等の医療従事者へ販売される場合に,錠剤に付された「ピタバ」の表示が商標的に使用されていないといえます。
 患者が被控訴人各商品のPTPシートに付された「ピタバ」の表示を認識すのは,服用の場面のみならず薬を購入する(薬局で薬剤師から薬を渡される)場面もあると考えられますが,その場面における出所表示はPTPシートの耳部分に表示された「トーワ」ないし被控訴人の社名である「東和薬品」の文字やロゴマークです。
 そうすると、被控訴人各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当すると考えます。

2015年7月27日月曜日

薬剤成分の略称表示の商標権侵害の成否[PITAVA(ピタバ)事件] (その2)

 いわゆる「ピタバ事件」の知財高裁の判決(知財高裁判 H27・7・16 H26(ネ)10098号)がでました。2件目の高裁判決と思います。
 原告(控訴人)は、薬について商標「PITAVA」の商標権者であり、ピタバスタチンカルシウムを有効成分とするコレステロール低下薬の後発医薬品メーカーです。競合会社が錠剤やシートに「ピタバ」を付した薬を販売したので、複数のメーカーや販売者に対して商標権侵害で訴えたもののなかの1つの高裁判決です。

 原審は、東京地裁平成26年(ワ)第770号です。原審では、
 『被告標章は,被告商品の有効成分であるピタバスタチンカルシウムの略称として被告商品(錠剤)に表示されているものであって,その具体的表示態様は,本件商標権の使用許諾を受けているキョーリンリメディオ株式会社のそれと何ら異なるものではない。そうすると,被告商品の主たる取引者,需要者である医師や薬剤師等の医療関係者は,被告商品に接する際,その販売名に付された会社名(屋号等)「明治」に加えて,被告商品のパッケージであるPTPシートに付された「明治」との表示や被告商品に併せて表示されている「明治」や「MS」の表示によってその出所を識別し,錠剤に表示された被告標章は,被告商品の出所を表示するものではなく,有効成分の説明的表示であると認識すると考えられる。
 ・・・
 被告標章の使用は,商標的使用に当たらず,本件商標権を侵害するものではないから,原告の請求は,その余の点につき検討するまでもなく,理由がない。』
と判旨し、原告の請求を棄却しました。
 そこで、原告(控訴人)は、本件登録商標を、指定商品を
 (1) 「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とするものと、
 (2) 「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」と、
に分割して、(2)に基づいて控訴したものです。


判旨:

 『当裁判所は,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当し,また,商品の「品質」又は「原材料」を「普通に用いられる方法で表示する商標」(同項2号)に該当するものと認められ,控訴人が有する本件分割商標権の効力は被控訴人各標章に及ばないものと認められるから,控訴人の当審における交換的変更に係る請求は,いずれも理由がないものと判断する。』


 (1) 被控訴人各標章の商標法26条1項6号該当性(争点1)

 知財高裁は、『被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」について,その塩であることを示す部分(「カルシウム」)の記載及び「スタチン」の記載を省略した「略称」であることが認められる。』とし、

 『医師,薬剤師等の医療従事者の間においては,後発医薬品の販売名は含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)から構成されていることは一般的に知られているものと認められるから,医療従事者が,被控訴人各商品に接した場合,被控訴人各商品が「ピタバスタチンCa錠1mg「明治」」等を販売名とする後発医薬品であることを認識し,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称であることを認識するものと認められる。
 一方で,患者においては,PTPシートに入れられた状態で被控訴人各商品の交付を受けた場合,PTPシートから被控訴人各商品を取り出して服用する際に,PTPシートに記載された「ピタバスタチンカルシウム」等の表示が自然に目に触れ,被控訴人各商品は「ピタバスタチンカルシウム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,被控訴人各商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。
 また,被控訴人各商品は,医師等の処方箋により使用する「処方箋医薬品」であり(前記1(1)イ(ア)),被控訴人各商品と他の薬剤とが一つの袋にまとめて包装される「1包化調剤」により処方される場合があるが,この場合,患者は,1包化した袋を開封し,その袋内に薬剤が入ったままの状態で服用するので,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示を認識することはないのが通常である。もっとも,患者は,1包化した袋からいったん薬剤を取り出して服用する場合もあるが,その際には,取り出した薬剤を一緒に服用すべきひとまとまりの薬剤として認識し,個々の薬剤の表示が目に触れたとしても,その表示が薬剤の出所を示すものと理解することはないものと認められる。
 以上によれば,被控訴人各商品の需要者である医師,薬剤師等の医療従事者及び患者のいずれにおいても,被控訴人各商品に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)から商品の出所を識別したり,想起することはないものと認められるから,被控訴人各商品における被控訴人各標章の使用は,商標的使用に当たらないというべきである。』
 『したがって,被控訴人各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当する』と認定しました。


 (2) 被控訴人各標章の商標法26条1項2号該当性(争点3)

 さらに、商標法26条1項2号該当性について、『被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,「商品の品質」である「有効成分」又は「商品の原材料」である「含有成分」を「普通に用いられる方法で表示する商標」に該当するものと認められる。』とし、
 『患者は,薬剤の効果や副作用について興味を持つことはあるとしても,当該薬剤の化学物質である有効成分の名称が何であるかということには興味や知識を持っていないのが通常であり,また,医師・薬剤師も,患者に対して薬剤を処方するに際し,薬剤の効果や副作用についての説明をすることはあるとしても,通常,当該薬剤の有効成分の名称が何であるかを説明することはないなどとして,取引者,需要者である患者において,「ピタバ」の表示が「有効成分」である「ピタバスタチンカルシウム」の略称を示すものとして一般に認識されているとはいえないから,被控訴人各標章は商標法26条1項2号の商標に該当しない』旨の控訴人の主張は認められませんでした。


検討:

 本判決に賛成です。
 被控訴人各商品は,錠剤であり,その錠剤に「ピタバ」と記載されています。このような被控訴人各標章と本件商標が類似する関係にあり,被控訴人各商品が本件分割商標権の指定商品と同一であるので,形式的には被控訴人各商品の製造販売は本件分割商標権の侵害(商標法25条,37条1号)に該当します。
 しかしながら、被控訴人各商品が病院,診療所,薬局等の医療従事者へ販売される場合には,箱に梱包されたままの状態で販売されますから,医療従事者が錠剤に付された「ピタバ」の表示を認識して購入することはありませんので、被控訴人各商品が病院,診療所,薬局等の医療従事者へ販売される場合に,錠剤に付された「ピタバ」の表示が商標的に使用されていないといえます。
 また、患者が被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示を認識すのは,服用の場面であって,被控訴人各商品を購入する際に商品を識別する場面ではないといえます。  そうすると、被控訴人各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当すると考えます。
 なお、本判決は、今年4月に施行された改正商標法において新しく設けられた商標法第26条1項6号(商標的使用)が適用されました。控訴人は、原審において商標的使用を請求原因としています。商標法第26条1項6号は、被控訴人(被告)の抗弁という位置付けで立法されていますので、立証責任は被控訴人にありますが、本判決では、裁判所は「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」であることが立証されたものです。

2015年7月10日金曜日

特許庁に提出した書面の返還

 名義変更などの際に提出する、例えば譲渡証(原本)は、何もしなくても、手続完了後特許庁から簡易書留便で返還されます。
しかしながら、出願継続中に、例えば拒絶理由通知に対する意見書の証明書面として提出した契約書(商標使用許諾契約書)の原本は、原則として、返却されません。当該出願が確定後、公文書として取り扱われるからです。
 注意が必要です。やはり、最初は、写しを提出すべきです。
 なお、この書類を返還すると、再度の審査が必要になります。
 返還を希望する場合には、通常の手続補足書ではなく、物件提出書とし、[返還の申出]の返還希望の意思表示をすることが必要です。

 詳細は、次を参照ください。

 第七章 出願手続Q & A
 問19 証明書返還請求(四法共通)
 既に特許庁に提出してある譲渡証書や委任状等の証明書の返還について教えてください。
 答: 証明書の返還請求は、不備のある証明書を提出したときに、不適法な手続の却下、補正指令、却下理由通知や行政指導の通知(受理しない旨の通知)を受けた際、その不備のある証明書の返還を受け、当該証明書の訂正等行うことにより再提出を簡便にし、手続者の便宜に資するのが適切であることから、以下の証明書返還請求書の提出により行っているものです。したがって、不備のない証明書については返還することはできません。


 工業所有権に関する手続等の特例に関する法律施行規則
 (物件の提出)
 第十九条  電子情報処理組織を使用して特定手続を行う者は、特許等関係法令の規定により当該特定手続に際して特許庁に提出すべきものとされている次に掲げる物件を、第十条の二第一項に規定する事項の入力の後第二十条で定める期間内に、特許庁に提出しなければならない。

  (略)

 2  前項第一号から第十号まで及び第十二号から第十七号までに掲げる物件を提出する場合は、様式第三十二により、同項第十一号に掲げる物件を提出する場合は、特許法施行規則 様式第二十二によりしなければならない。

2015年6月11日木曜日

薬剤成分の略称表示の商標権侵害の成否[PITAVA(ピタバ)事件]


 いわゆる「ピタバ事件」の知財高裁(知財高裁判 H27・6・8 H26(ネ)10128号)の判決がでました。数件の地裁判決が出ていますが、高裁判決は初めてだと思います。
原告(控訴人)は、薬について商標「ビタバ」の商標権者であり、ピタバスタチンカルシウムを有効成分とするコレステロール低下薬の後発医薬品メーカーです。競合会社が錠剤やシートに「ピタバ」を付した薬を販売したので、複数のメーカーや販売者に対して商標権侵害で訴えたもののなかの1つの高裁判決です。

 本判決は、被控訴人各全体標章は,本件商標権に係る指定商品の原材料を普通に用いられる方法で表示するものにすぎないから,商標法26条1項2号により本件商標権の効力が及ぶものではないとして、請求を棄却しました。

 原審は、東京地裁平成26年(ワ)第773号です。原審では、被告は商標を使用しており、「商品の出所に混同を生じさせるものとして(原告の登録商標と)類似すると解する余地がある」とし、
 『本件商標の指定商品のうち本件物質を含有しない薬剤に本件商標を使用した場合には,需要者等が当該薬剤に本件物質が含まれると誤認するおそれがあるので,本件商標は「商品の品質…の誤認を生ずるおそれがある商標」(商標法4条1項16号)に当たると判断するのが相当である。』ので、
 『本件商標の商標登録は無効審判により無効にされるべきものであり,原告は本件商標権を行使することができない(商標法39条,特許法104条の3第1項)。』
という理由で、原告の請求を棄却しました。
 そこで、原告(控訴人)は、本件登録商標を、指定商品を
 (1) 「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とするものと、
 (2) 「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」と、
に分割して、(2)に基づいて控訴したものです。


 知財高裁は、『被控訴人各全体標章を構成する語である「ピタバスタチン」とは,被控訴人各商品の有効成分である本件物質の慣用名で,本件物質の一般的名称である「ピタバスタチンカルシウム」から,塩についての記載である「カルシウム」を省略したものであり,本件商標権2の指定商品である「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」の「原材料」に当たるものである。』と認定し、

 『被控訴人各商品のPTPシートには,被控訴人各全体標章のほか,横書き一段の「ピタバスタチン」の記載があり,これと外箱における販売名の記載などを併せて見ると,被控訴人各全体標章が「ピタバ」ではなく「ピタバスタチン」を表したものであると認識することは,医療従事者にとっては容易であるということができる。
 そうすると,結局,医療従事者にとって,被控訴人各全体標章を見たときには,一体として「ピタバスタチン」を表していること(あるいは,「ピタバ」の部分のみを取り出した場合には,「ピタバスタチン」の略称として用いられているのにすぎないこと)を,容易に理解することができるというべきである。
 次に,患者にとっては,被控訴人各商品は,いずれも処方箋医薬品に指定されているから,医師等の処方箋なしにこれを購入することはできず,医師から薬剤の処方を受ける際には,少なくともどのような性質でどのような効能を持った薬剤を処方されるか等について説明を受け,被控訴人各商品を購入する際には,薬剤師から,被控訴人各商品の性質や効能,購入する商品が,その有効成分である本件物質の一般的名称や慣用名,あるいは販売名を成す「ピタバスタチン」あるいは「ピタバスタチンカルシウム」であるとの説明を受けることが一般的であると考えられることは,前記イにおいて説示したとおりである。
 仮にPTPシートを一錠ずつに切り離したとしても,表面には必ず横書き一段の「ピタバスタチン」の語が付されていることとなることなども併せてみると,患者において,被控訴人各商品に付された被控訴人各全体標章が,一体として「ピタバスタチン」を指すものであること(あるいは,「ピタバ」の部分のみを取り出した場合には,それが「ピタバスタチン」の一部を取り出した略称にすぎないこと)を,さしたる困難もなく理解することができるというべきである。

・・・

 したがって,被控訴人各全体標章は,取引者や需要者において,全体として「ピタバスタチン」を表示するものとして認識されるか,又は「ピタバスタチン」の略称と容易に理解することができる語としての「ピタバ」を表示するものとして認識されるものということができるから,その表示は,「普通に用いられる方法で表示する」ものの域を出るものではないと認められる。』

 という理由で、商品の原材料である「ピタバスタチン」を,普通に用いられる方法で表示するので,商標法26条1項2号に当たり,これに対し,控訴人の有する本件商標権の効力は及ばないとしました。

 知財高裁は、需要者は医療従事者(医師,薬剤師,看護師等)のみならず、患者も入るとしましたが、患者についても上記理由で医薬品について「ビタバ」が原材料名であることを理解できるとしていますが疑問です。

2015年6月7日日曜日

最高裁判決-「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」の解釈-

 最高裁第2小法廷は、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その特許発明の技術的範囲(要旨)は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定(認定)されるものと解する」と判示し、原判決を破棄・知財高裁に差し戻しました。

 ハンガリーの医薬品メーカー「テバ」が自らのPDP(Product-by-Process)クレーム特許と同一成分の薬を製造販売する協和発酵キリン等に対して、その製造販売等の差し止めを求め提訴していたものです。

 原審である知財高裁は、裁判官5人による大合議判決により、物の発明をその製造方法によって特定したPDPクレームの技術的範囲及び無効の抗弁(特許法104条の3)における発明の要旨の認定のいずれについても,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合,その技術的範囲及び要旨は,クレームに記載された製造方法によって製造された物に限定される判示しました。
 つまり、知財高裁は、クレームに記載された製法を限定要素とする『製法限定説』の立場です。

 それに対して、最高裁は、原審には判例違反があるとして、原判決を破棄しました。つまり、当該製法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定される(『物同一説』)の立場です。

 そして、クレームの記載の「明確性要件」(特許法36条6項2号)について、この要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると判示しました。
 裁判では、被疑侵害者の特許無効抗弁」(特許法104条の3)になりますから、立証責任は被疑侵害者でしょうか?被疑侵害者が「発明が明確でないので無効」とうい主張に対して、特許権者が「不可能・非実際的事情が存在する」ので明確性の要件を満たすと反論するのですから特許権者に立証責任があるように思います。

 補足意見を千葉裁判官と山本裁判官が述べられています。
 山本裁判官は、物の発明をPBPクレーム形式で記載しないと、かえって明確でなくなる場合があることを懸念されていますが、私も賛成です。

 同裁判官は、さらに、不可能非実際的基準では発明の保護が図られなくなるおそれにつながる懸念を示し、「発明の要旨」と「特許発明の技術的範囲」とは、クレーム解釈としては本来一致すべきものではあるが、PBPクレームで表現された物の特許について発明の技術的範囲を実質的にその方法に限定されるように解釈することで妥当な結論が導かれるのではないかとの意見を述べられています。

 しかしながら、最高裁判決は、「発明の要旨」と「特許発明の技術的範囲」のみならず、発明の明確性(多数ある無効理由の中の1つ)を取り上げ、その判断基準を示しています。そして、その基準に基づいて再度審理するように知財高裁に差し戻しました。
 最高裁が、このように(特許庁の運用基準に規定されるような)細かいところに基準を定めることには疑問です。それは事実審を行う下級審にまかせればよいと考えます。また、「不可能・非実際的事情」が存在することの証明はほとんど不可能(あるいは実際的ではない。結果として特許無効)のように思いますが、どうでしょうか?

2015年5月8日金曜日

 ロサンゼルスでは、まず、ロゴを買いに行きました。事前に調べておきましたので、メトロでそのように行く予定でしたが、メトロといっても、バスと地下鉄があり、バスは乗り場がわかりません。なかなか来ないので訪ねたら、午後しか通っていないといわれたので、急遽、予定を変更し、地下鉄でNorth Hollywoodへ行き、Orange Lineで終点のWarner Centerまで行きました。ここから、また、時間がかかったのですが、Google地図検索は知らないところを歩くときには必須アイテムてあることを思い知らされました。
 なお、私はREGOと思っていましたので、このことも原因の1つと思います。"Oh! LEGO"となれば、話は簡単です。
 また、長い道のりを往路と同じく黒人の女性が運転するメトロでハリウッドまで帰ってきたときには4時を過ぎていました。
 Union Stationは大きな駅です。帰りのメトロ(バス)は、ここから乗るのですが、乗り場がわかりません。Silver Lineですから、その場所を聞くのですが、私のバスはそこを通らないのです。乗り場はわかりましたが、9時を回っていましたのでタクシーにしました。今日は、日頃の運動不足の解消になりました。

2015年5月7日木曜日

 5日目(最終日)です。セッションは、米国巡回控訴裁判所の裁判ケースとTTAB(the Trademark Trial and Appeal Board)を聞き、再度、読み直してみる必要があるように感じました。
 時間がありましたので、「"Not So Well-Known"が中国で(どのように)保護されるか?」についてもの部屋に入りました。進行人が最初に発表者の経歴を説明しますが、蒼々たるものです。英国で学び、米国の大学を卒業した後、現在は中国の役人(女性)です。私は英語が得意ではありませんのでと前置きして自らは中国語で説明し、翻訳者による英語翻訳をつけました。生意気なものです。
 そして、最初に、中国商標法(7条)では「信義誠実」な出願であることが求められていることを強調していましたので、私は、それ以上聞く必要はないと思い、退場しました。
 12時から待ち合わせがあったためでもありますが、30分待っても一向に現れないので、諦めて帰りました。これからロサンゼルスへ向かいます。ロサンゼルス空港からホテルへは乗り合いのシャトルバスで行きました。まわりには何もない辺鄙なところです。

2015年5月6日水曜日

 4日目(5/5(火))です。昼は、3rd avenue,P street にあるHard Rock Cafeです。米国の法律事務所がINTA参加者にrecptionを開いてくれたのです。12時から3時まで貸し切りで食べ放題・飲み放題ですから相当かかります。それでも長い目で見ればペイするのでしょうか?
 サンデシエゴは、明日の午前中でシャツとスーパーでの食品(菓子など)になりました。ディナーは同じくスーパーで購入したビールパンとチーズです。米国は格差社会です。高級ホテルに宿泊し、ホテルでディナーを食べれば相当かかりますが、それ程離れていないとことに安ホテルもありますので、近くのディスカウントストアで食材を揃えれば安上がりです。

2015年5月5日火曜日

 3日目(5/4(月))です。セッションは、「Boudaries of Trademark Enforcement and Trademark Misuse(商標権行使と誤用(悪用)の境界)」,「What is Parody?(パロディとは?)」,「Is Fair Use Always Fair?(フェアユースは常に公平か?)」を聞きました。どれも盛況でしたが、パロディに関しては so‐so でした。
 夕方は、あるインドの法律事務所主催のカクテル・パーティに参加し、現在はホテルでこのブログを書いています。これから、Night Pub(写真右)で9時から開かれる米国法律事務所主催のレセプションに出かけます。

2015年5月4日月曜日

 2日目(5/3(日))です。ミーティングが始まりました。参加者(法律・特許事務所や企業間)の打ち合わせが頻繁に行われています。
 私は、おそらくINTAが設けた会場は騒々しいからでしょう、近くのホテル(Marriot)に予約されていましたので、そちらへ行きました。日本の協力事務所を捜しているのですが、特許でしかも件数が多いと難しいです。
 昼食は、会場のすぐ近くのレストランでとりました。先ほどのホテルといい、このレストランといい、INTA会場ではもの足りないINTA参加者で溢れています
 夕方、receptionが開催され、そこで様々な人と会って話すことができました。国(アフリカ、ウズベキスタン、ロシア、ミャンマー等々)、年齢、子供連れ、容姿などなどです。私が最も関心を持ったのは、bold、あるいは薄毛の男性が多いことです。この点、世界標準にあります。

2015年5月3日日曜日

 INTA、初日です。英語は、理解できないので、初日から食べて飲むところを見つけては参加しました。そのような場でも、話しかけると名刺を手渡されますので、しかたなく交換します。名刺交換は日本人という印象が強かったのですが、ワールドワイドです。
 このような状態ですから、すでにおなかも膨らみ、かなりでき上がっていたのですが、今日は、かねてから予定されていたディナーです。LAで留学されている○○○弁護士に予約していただいたメキシコ・レストランで日本人数名と会食しました。
 同時刻に、ボクシングの世紀の対決が行われています。パッキャオ、ついに敗れる

2015年5月2日土曜日


サンディエゴに来ました。INTA(インターナショナル・トレードマーク・アソシエーション)の年次大会に参加するためです。
サンディエゴは、いい天気で暖かいです。出発前、東京も夏がきたような天候でしたが、同じような感じです。
ホテルは、この大会のためと思いますが、そして私の参加決定が遅かったためでしょうが、予約には苦労しました。
写真(上)は、今日から5日間宿泊するホテルです。割と会場近いため決めました。今、すでに12時を過ぎているのに若者が騒々しいなど、決してお勧めできるホテルではありませんが、なんとかなるでしょう。モーニングコールもありませんので、明日の朝は初めてスマホの目覚ましを使います。
写真(下)はは、ホテルが面した通りから会場方向(南)を見たものです。

2015年3月27日金曜日

 INTA東京ミィーティングの2日目です。休憩時間に中年の中国人女性と話をしました。彼女は、北海道で5、6年暮らしたことがあるということで日本語を話すことができます。彼女は、私になぜ日本人の参加者が少ないのかと問いました。折角、日本で開催されるのに、なぜ日本人(特に企業から)は参加しないのかと聞かれました。
 私も同様に感じていました。台湾、中国からは多くの人が参加しているように思いました。韓国、フィリピン、香港、マレーシアからも来られています。それに引き替え、日本人は少ないように思いました。そして、私が話した人は大抵日本語を話すことができました。
 彼女も、アジアの近隣国からの参加に比べて、ホスト国である日本の参加者が少ないと感じたのでしょう。

2015年3月26日木曜日

 International Trademark Association (INTA)のミィーティングが今日明日の2日間、東京ヒルトンホテルで開催されます。
 今日のセッションで興味があったのは、地理的表示(Geographical Indications)です。日本からは、農林水産省の藤田氏が、今年6月から施行される、いわゆる地理的表示法についてから説明があり、次に、小泉弁護士が、日本で地理的表示保護制度が導入されるされることを賞賛しつつ、その導入によって生じるであろう課題について、商標法あるいは国際条約の観点から発表されました。
 しかしながら、保護すべき地理的表示は農産物だけではありません。手工芸品などのようなその地域で独特の方法でつくられるものがあります。
 これをタイに在住のlawyer(フランス人)は、Geo-authenticity(地理確実性)という言葉を使用して説明していました。「Innovation without patents」という書物が参考になります。